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5.1および図5.2に示す。試験体の下側はI型はりであり、疲労き裂伝播挙動を観察する上側部分は隅肉溶接によってI型はりの上フランジに取り付けられている。負荷は3点曲げであり、△σ1は試験片の上縁に沿った長手方向の公称曲げ応力範囲、△σ2は試験片中央部での上下方向の公称応力範囲である。2軸応力範囲比はr=△σ2/△σ1と定義される。各試験片の溶接残留応力分布の測定結果によると、試験部長手方向の残留応力分布は、I型はりの上フランジ隅肉溶接付近では引張り、溶接線から離れた位置では圧縮となっており、最大の圧縮残留応力値は、試験部上縁から30mm程度の位置でその値は-200MPa〜−300MPaである。
シミュレーションの例として、r=1,02の場合について考察する。変位ズーミング解析および今回開発したスーパーエレメントを利用した解析の結果を、溶接残留応力を考慮した場合としない場合について実験と比較する。変位ズーミング解析では、き裂のない場合の変位を境界上に与える。スーパーエレメント解析時のメッシュ分割図を図5.3に示す。
図5.4にき裂伝播経路を示す。残留応力の有無に関わらず実験結果とほぼ同様の経路をとることがわかる。図5.5にき裂伝播曲線を示すが、残留応力の影響が大きいことが分かる。変位ズーミング解析の場合、き裂伝播速度の著しい低下が見られ、最終的にはき裂が止まる。これは、変位境界に与えられる強制変位の値がき裂進展前に対して計算された値であり、き裂進展に伴う周辺構造との弾性相互作用を考慮していないためである。スーパーエレメント解析の場合、この例ではき裂進展寿命が実験とほぼ一致した。
(3)大型構遣モデルAに対する数値シミュレーション
本研究部会で行われた大型構造モデルAのき裂伝播経路と応力拡大係数解析を行った。実際の試験体は3本のロンジを持つが、数値解析用のモデルは、図5.6のメッシュ分割図のようにロンジ1本としてモデル化した。ロンジと隔壁の交叉部にブラケットがある場合とスチフナがある場合のそれぞれのき裂伝手翻蚤路に大きな差はなくどちらもほぼ直進している。図5.7に、応力拡大係数を示す。ロンジ3本を有する場合について、その一箇所のスチフナ端から垂直真下にき裂が伸びる場合のK値計算結果を比較のため示す。明らかに、後者の方が応力拡大係数が小さいが、これはき裂進展に伴う構造的な内力の再配分が起こるためであると考えられる。
(4)まとめ
(a)疲労き裂伝播形態(伝播経路)の予測に関しては、作用応力のみを考慮し、周辺構造の剛性も近似的な取扱いで十分な結果が得られる。
(b)疲労き裂の伝播には、溶接残留応力特に圧縮残留応力が影響し、伝播寿命を長寿命化させる傾向がある。
(c)き裂伝播経路と残留応力分布の相互作用により疲労き裂伝播寿命はき裂伝播経路の選択と境界条件に極めて敏感に変化する場合がある。2軸応力下のき裂曲進が生じる場合には、詳細な解析を要する。
(d)上記の場合であっても、汎用解析コードのスーパーエレメントを利用しき裂部周辺の3次元構造の剛性を正確に考慮したシミュレーションを行なうと、き裂伝播経路およびき裂伝播寿命の予測精度が大幅に改善される。
(c)補強板構造の場合き裂伝播に伴う隣接構造への荷重再配分の影響が大きいので、き裂伝播解析モデルの境界条件の設定には注意を払う必要がある。

 

 

 

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